はじめに

 

  ここは宮崎駿著の漫画「風の谷のナウシカ」を、心理学っぽいアプローチで考察しているサイトです。
  この漫画は同氏監督の有名なアニメーション、映画「風の谷のナウシカ」の原作にあたる作品です。
  しかし、映画版は全7巻からなる原作のほんの2冊ほどの物語でしかないので、残念ながら原作の持つその深みに触れる事ができずに終わっています。
(というか、映画公開時にはまだそこまでしか描かれていなかった。)
 
 映画「風の谷のナウシカ」は、おそらく日本に住んでいるほとんどの人間が知っているでしょう。 その一方、原作である漫画「風の谷のナウシカ」については、聞いた事はあるが読んだことは無い、という人が多いと思います。
  また、この作品はメインテーマ自体が重厚な上、
原作ではさらに登場人物や背景が複雑かつ難解になっているので、おそらく一度読んだだけで十分に理解できる人はあまり居ないでしょう。
  だからこそ、とも言えますが、ここには宮崎氏の思想・哲学やメッセージが非常に高い濃度で描き込められているように思います。
  このサイトでは物語の流れに主眼を置きつつも、その背景にある宮崎哲学を独断的に推測・考察・解釈し、最終的には「人はいかに在るべきか」という命題に対する氏の回答を読み解こうと試みています。

 ちなみにここでは、映画版「風の谷のナウシカ」にはほとんど触れていません
 それは、
@「風の谷のナウシカ」という作品自体が本来映画化を予定していたものではなく、映画版はむしろ副次的な産物であると言える事。
A映画版は制作に関わった人間が多すぎるため、宮崎哲学としての純度が原作に比べ落ちる事。
B映画はどうしても商業的にならざるを得ず、制作過程において様々な制約・妥協があったであろう事。
C「風の谷のナウシカ」の本質が、映画化されていない物語の後半になって現れてくる事。

・・・などといった理由によるものです。
 映画版も優れた作品である事に変わりはありませんが、それでも娯楽作であることに変わりなく、そこにある自然主義や博愛主義的な思想も、
現代ではごく一般的なものになってしまったように感じます。

 基本的に宮崎作品は二種類に分けられると考えます。
 一つは「ラピュタ」や「トトロ」を代表とする娯楽(+情操教育)作品であり、子供に観せる事を主眼としています。
 もう一つは「もののけ姫」を代表とする自己主張作品であり、「見せる」ことではなく「作る」、あるいは「遺す」ことを目的に作られた感があります。
 映画版ナウシカでは、氏のその二つの願望が
まだ
ハッキリと分化していませんが、漫画版ナウシカ、特に映画化されていない後半は、純粋に宮崎氏の思想表現の場になっています。
  そして、そこに見出せる宮崎氏の思想は、一般的な自然主義や博愛主義などとは一線を画した、極めて先進的な哲学であると感じます。 (とはいえ、考察するにあたってはそれらの個人的感情は客観性を損なう要因となるので、できるかぎり中立性を重視し、批判的な姿勢も積極的に取り入れるよう心がけました。)

 また、「マンガ」などそうした検証に値しない、と考える方もいるかと思われますので、それについて一言。
 確かに本作品はまぎれも無くフィクション・作り物であって、単なる宮崎氏の空想の産物と言うこともできます。
 さらに言えば、実際物語の終盤で明らかになるように作中の世界は、その成り立ち方すら現実のものとは大きく異なっています。
 現実主義者なら、空想上の物語から真理を見出そうとするなど愚かの極みである、というかもしれません。
 しかし、フィクションもノンフィクションも、第三者の主観を介したものである事に変わりはありません。 それに、設定上の非現実性が論理的整合性に与えうる影響は、それほど大きなものではありません。 (「朝起きたら虫になってた」と始まる物語ですら、高く評価されています。)
 作品の持つ現実性とは、そのまま作者の世界観の持つ真理性でもあります。 その意味で「風の谷のナウシカ」は稀に見るリアリティーを持った作品であると言えるでしょう。

 考察の手法としては、状況の描写や登場人物の言動や感情、それらの背景などを対象とした心理学的な視点を用いた解釈を基本としています。
 そのため何度か同様の記述が出てくる場面もありますが、理解の妨げにはならないと判断し記載しました。
 またそれにあたっては多くの人、特に若年層に理解してもらうため、できるだけ平易な文章と表現を心がけましたが、それでも使わざるを得なかった多少の専門用語は注釈を併記してみました。
 また、私的な見解や重要と感じた表現などには、記号をふって表記しています。


私見。たまに脱線する事がありますが、ご了承ください。
紫文字重要なセリフ・表現・記述。
赤文字固有名詞や専門用語。詳しい説明は「用語集」に。
ページ表記「B1/P-234」は「第一巻234ページ
」を表す。「P-234」だけの場合は同巻の234ページ。

 最後にまだ本編を読んでない人は先に読み、そして自分で一度解釈してみる事をおすすめします。
 読んだ後、どのような結論に達するにせよ、その思考の過程は必ずや貴方の人生にとって有意義なものとなるでしょう。